エデンへの道 -ある解剖医の一日-: der Weg nach Eden(1995/独)

剖検

【staffs】監督 :ロバート・エイドリアン・ペヨ
出演 :ケシェリュー・ヤーノシュ
【prises】(not worth mentioning)
【my appraise】★★★★+(4 plus per5)
【prot】
 ブタペストの病理医ヤーノシュの日常を綴ったドキュメント。
【impression】
 日常としての解剖が、淡々と非日常的に展開される。モノとしての死体を通じて、生と死を考えさせられる真面目なドキュメント。
 病理医ヤーノシュの職業としての剖検が、自身の内面や日常との対比で描かれているが効果的。
 死体を扱っている映画ということで、やや際物的な扱いを受けている場合があるようですが、私は、この作品を、大変真面目な作品として高く評価します。

【medical view】
 副題の「解剖医」という言葉なのですが、ありそうでいて、実は存在しない言葉です。
 ヤーノシュの職業は、正しくは、「病理医」です。「解剖」という非日常性に目を奪われた日本語スタッフが、「解剖医」という名称を思いついたのだと思います。ヤーノシュが行っている解剖は、病理解剖であって、あくまでも死後の人体の臓器や病変を確認し診断を下すために行っている解剖です。解剖そのものが目的ではなく、解剖医というのはちょっと変です。
 「解剖医」という名前だけなら苦笑いで済みますが、ネット上の解説でヤーノシュが葬儀屋を兼務などとありました(TSUTAYA onlineなど)。どうやら、ヤーノシュがエンゼルケア(死化粧などの死後の処置)をしているのを、「葬儀屋」ととったのでしょう(確かに、日本で病理医がエンゼルケアまではやらないのが通常で、そのくらい荘厳な心がけで解剖を行うべき、と病理医は考えていると思います)。
 ところで、現在、わが国では、死後に病理解剖(剖検)するということがあまり一般的ではありません。ただ、診断・治療技術の向上のためには、本来、全てのご遺体を剖検すべきであるというのは、世界中の医療関係者が一致した意見でしょう。
 通常、剖検が行われる前に、医療スタッフの側から、解剖させていただきたいとご家族に申し出ることになります(医療ミスが疑われる場合などは、患者家族の側から解剖を依頼するケースもあります)。しかし、哀しみの中にある家族に急に「解剖」と言われても、なかなか受け入れられるものではない、というのが現状です。
 最近、特に剖検率が落ちているようです。病理医不足とか、患者・医師関係がうまくいっていない(患者側の権利意識の高まりと医師側のコミュニケーション不足・認識不足)とか、色々な説があるようですが、1990年前後は主要な病院だと、死後5割は剖検していたのではないかと思いますが、現在では2割を切る病院が少なくないようです。剖検率を高めるには、患者・医師が相互に信頼できる関係にある必要がありますし、医療従事者側にまじめに病因を探索しておこうという真摯な姿勢・体制が必要となります。したがって、剖検率が、病院の質の指標になるという考え方があるようです(患者家族に剖検を強いているような病院はないと信じたいです)。例えば、わが国では日本内科学会が認定する「認定内科医」「内科専門医」の教育病院では、内科剖検体数が16体以上あること,または内科剖検率が20%以上で内科剖検体数が10体以上あることが必須条件の1つになっています。
 ただ、剖検率が減ってきているのは世界的な現象のようで、原因の追及が必要な、深刻な事態だと思います。一般の人々が、死後の病理解剖の必要性を十分認識できるもらうような情報提供や啓発も必要なのではないかと思います。
 医学書院『週刊医学界新聞』の伊藤康太先生の2004年7月の記事が参考になります。
 それと、医学書院『内科臨床誌 medicina』2005年4月号より、「病理との付き合い方 病理医からのメッセージ」という連載が始まりました。主としてドクター向けの記事ですが、一般の人でも分かるレベルで分かりやすく書いてあります。
第1回医療のなかの病理学
第2回病理とのつきあい方

 全く余談ですが、医学書院は、ウエブに記事内容まで掲載せてくれているし、本当に有り難いです。それに、雑誌に依頼原稿を書いただけで『週刊医学界新聞』をずっと送ってくれるし、儲かるのかしら?と心配になってしまいます(記事を出版して儲けているようですが…)。

以前リンクしていた毎日ライフの記事はネット上から削除されています。

 私自身父親を一昨年に亡くしましたが、その際には、主治医(ウロ)から剖検のお申し出がありませんでした。主治医には相当無理をお願いしていたこともあり、また、最初の主治医が胃がんを誤診し、膀胱への転移を見落としていたこともあり、お願いされれば、他の家族を説得して喜んでお受けしようと思っていたのですが…。
 中核市とはいえ地方の市民病院(国保直診)では、剖検の体制もないのかしら…と思いつつ、失礼な気もして、こちらからは、申し出ませんでした。

 病理の仕事も、最近は生きた組織・細胞レベルを顕微鏡で検索する仕事が主となってきて、病理学=病理解剖というイメージではなくなっています。病理医は臨床では無くてはならない存在ですが、どちらかというと裏方のような存在で、臨床の要でありながら「基礎」という一括りで軽視される傾向にあるのが残念です。

 なお、犯罪や自殺などの異常死を扱うのは、法医学であり、そこで活躍するのが監察医で、そこで行われる解剖は「法医学解剖」です。特定の毒物や刃物などによって人体、臓器、組織がどのようなダメージを受けるかという点において、病理医とは異なる専門性が要求されるのです。
 また、養老孟司元東大教授で有名な解剖学という分野がありますが、ここでは正常な構造の人体の解剖をミクロマクロ的に研究するとともに、医学教育を行うところです。解剖学の専攻する医師を、解剖医とは呼ばないですね、やっぱり。
【tilte, subtilte】
 原題のder Weg nach Edenはドイツ語1年生でも分かる「エデンへの道」。
 副題の「解剖医」は上述したように、不適切な語句。更に、ビデオタイトルの「死体解剖医」は、キワモノ狙いとしか思えず、残念。

【books】
 森卓也さん『映画そして落語』で、本作品が取り上げられているようです(私は読んでませんが)。
【videos, DVDs入手しやすさ】★★★
 ビデオ・DVDともレンタルがリリースされています。レンタルDVDはなかなか置いていないようです。私は、DISCASでお借りしました。

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by harufe | 2005-01-02 12:56 | 基礎医学と医療制度


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