誤診 :... First Do No Harm(1997/US)

G40.3 全身性特発性てんかんおよびてんかん(性)症候群
G41.0 大発作性てんかん重積(状態)


【staffs】監督: ジム・エイブラハムズ
出演: メリル・ストリープ(Lori Reimuller)、フレッド・ウォード(Dave Reimuller)、セス・アドキンス(Robbie Reimuller)、アリソン・ジャニー(Dr.Melanie Abbasac)
【prises】
1997年エミー賞ミニシリーズ・特別番組主演女優賞(メリル・ストリープ)ノミネート、1998年ゴールデングローブ賞TV映画主演女優賞(メリル・ストリープ)ノミネート、1998年ヤングアーティスト賞最優秀ファミリーTV賞受賞、最優秀10歳以下最優秀男優賞(セス・アドキンス)受賞
【my appraise】★★★+(3plus per5)
【prot】
 三人の子どもに恵まれ幸せに暮らす一家。ある日幼い末っ子ロビーが発作を起こし、保育園を早退する。それはてんかんの重複発作の始まりだった。
 ロビーのてんかんは難治性で、あらゆる薬を試みられるが、効果なく、逆に薬の副作用でますます衰えていく。医師は、外科的手術を進めるが、医師の治療に疑問を持つ母親は、自ら図書館で治療法を勉強始める…。
 実話に基づいて作られた作品。
【impression】
 なんといっても、メリル・ストリープの演技が光ります。また、それを超えるのが、ロビー役のセス・アドキンスの演技です。
 ただ、この二人の演技が余りにも真に迫っているので、逆に、下に述べるミスリーディングが心配になります。

【medical view】
 医学的な考証はきちんとしていると思いますが、ミスリーディングな内容です。
 この映画を見た多くの人は、「やっぱり病院って怖いなあ」と思うし、「医者を信じて治療を受けるのは止めた方が良いな…」と思うのではないでしょうか。また、ケトン食療法が、てんかん治療の切り札のように感じる人がいるかもしれませんし、外科的治療に対する嫌悪を感じる人がいるかもしれません。
 確かに、ケトン食療法は、乳幼児の難治性てんかんにとって、選択しうる1つの有効な治療法であるようです。しかし、副作用というか危険性も高く、一部の人に限られた効果しかあげられていません。むしろ、外科的療法の方が有効な人も多くいます。

  ただ、ケトン食療法が、なぜ難治性のてんかんに効果を示す場合があるのかが、いまだ、科学的には不明なのです。 ケトン食療法は、断食により、てんかん発作がなくなる/弱まる場合があるという事実から、19世紀に始まっていたのだそうです。 断食期間は、血糖が尽き、体内の脂肪をどんどん燃やし始めます。そのために、体内にケトンが代謝される(脂肪の種類にもよるが)。 であれば、低炭水化物食、高脂肪食によって、同様な効果があるのではないか…という思いつきから始まったのだと思います。 ただ、そもそも、なんでケトンが、脳の異常発火(てんかん発作)を抑制する効果があるのは、今にいたっても謎なのです(仮説すらない)。

 それから、映画でも散々出てきたように、「二重盲検法」でもその効果が確認されていないのです。ですから、例えば、クリニカル・エビデンスISSUE9 (代表的な疾患の治療法について、最新の科学的な証明をしめしたドキュメント。イギリスで発行され、イギリスでは医師、医学生及び一般市民が、日常的に用い、米国では50万人の医師、イタリアでは30万人の医師に対して、公的機関が配布している。) にも、ケトン食療法は掲載されていません。このように、ケトン食療法は、「非科学的な代替療法」と言い切ってそう問題はないと思います。

 「科学的な理屈付けがしっかりしているか」というのを「妥当性」、「統計的に裏付けられたきちんとしが比較を行って、ちゃんと効くことが証明されているか」というのを「信頼性」という言葉で表せば、 ケトン食療法には、妥当性も、信頼性もない治療法ということになります。 ロビーの両親の友人の医師が、主治医に対して、「複数剤併用も開頭術も二重盲検法で確認されていないじゃないか」と反論され、主治医が黙っちゃいますが、 複数剤併用も開頭術も、「信頼性はないが、妥当性はある」ということで、大きく異なります (なんで、それを反論しないか不思議だったが)。

 さらに、TVMだと、ケトン食療法は、誰にでも効果がある魔法の治療法のように描かれていますが、実際には、効果があるのは半数程度(厳密に科学的ではないのですが)、 ですし、また極端な食生活のため継続できない人も一定割合いるようです。 それに、ケトン食療法は、「no harm」という点では、開頭術に比較すれば優れていますが、結構危険性があります。このように、科学的思考をとる医師であれば、 積極的には推薦したくない治療法であることは、理解できます。 ロビーの場合は、結果的に、ハッピーだったわけですが、主治医が心配していたように、逆効果となった可能性も否定できません(当然、ケトン食療法が全く効果が無く、外科的治療が著効がある子どももいます)。

 この映画から得られる教訓は、「病院は怖いところ」ということでもなく、「外科治療は恐ろしい」ということでもなく、「食餌療法が信頼できる」ということでもありません。医療側がいかに正しいという「科学的な確信」を持っていたとしても、患者や家族が、自ら治療法を選択するということに、医療がどう折り合いをつけていくのか、ということだと思います。
 この当たりは、「ロレンツォのオイル」のところで参照した、李氏の言及をご参考下さい。
 ケトン食療法については、下のページを参照下さい。
日本てんかん協会の説明ページ
長崎てんかんグループの説明ページ

 この映画でも、フレッド・ウォード演じる父親の保険のせいで、最初に入院した病院を退院して、郡立病院に転院せざるをえないといった、アメリカ独特の制度上の問題が出てきます。
 【tilte, subtilte】
 原題"…first do no harm"は、「(患者を)何よりも傷つけてはならない」「治療に副作用はつきものだからといっても、治療がかえって害を与えることにならないかを慎重になるべきである」という意味です。 この言葉は、一般に、『ヒポクラテスの誓い』のフレーズとされ、医療従事者(特に医師)であれば誰もが知るフレーズです (『ヒポクラテスの誓い』は、医学の父と呼ばれるヒポクラテスが、医師の基本的な理念を語ったものです)。 TVMの中でも、冒頭、医学生の卒業式で登場しています。 しかし、実は、"…first do no harm"というフレーズは『ヒポクラテスの誓い』の中にはありません。 "I consider for the benefit of my patient and abstain from whatever is harmful or mischievous."という大変類似したフレーズはあるのですが…。 なぜこんなことになっているのか、とても不思議だったのですが、海外でも同じ事情で、それについて、言及しているサイトを見つけましたのでご参照下さい。
 しかし、それにしても、邦題「誤診」はひどい。 この作品の内容には全く一致しないタイトルです。 というのも、出てくる医師は、誤診はしていませんし、もちろん「医療過誤」「医療ミス」も起こしておらず、あえていえば「医療被害」ということになるでしょうか。 映画を見ていただければ、分かりますが、この当たりをごっちゃにされると、制作者たちが描きたかったことがずたずたにされてしまいます。
 それから、字幕についてですが、「ケトン食餌療法」とは普通言わないと思います(「ケトン食療法」が正しい)。 また、テグレトール、デパケンといった薬品名を、テガトール、デパキーンとするなどの細かい誤りがあります(日本で通用している呼称と英語読みとは違う)。 こういう作品を扱うのであれば、きちんと考証を受けるべきです。 。

【books】 
【videos, DVDs入手しやすさ】★★★
 レンタル&セルDVDがリリースされています。昔のレンタルビデオもありますが、DVD、ビデオ共に置いてあるレンタル・ショップは余り多くないです。

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by harufe | 2005-06-20 12:51 | ICD G00-G99神経系の疾患


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