不滅の恋 ベートーヴェン Immortal beloved(1994/US)

H80.9 耳硬化症,詳細不明
T56.0 鉛およびその化合物の毒作用


【staffs】バーナード・ローズ監督
ゲイリー・オールドマン(Beethoven)、Isabella Rossellini イザベラ・ロッセリーニ(Countess Anna Marie)、ヴァレリア・ゴリノ(Julia Guicciardi)、ヨハンナ・テア・シュテーゲ(Johanna Van Beethoven)、ジェローン・クラッペ(Anton Schindler)、マルコ・ホーフシュナイダー(Karl Van Beethoven)
【prises】(not worth mentioning)
【my appraise】★★★+(3 plus per5)
【prot】
 ベートーヴェンの遺書に残された「私の楽譜、財産の全てを“不滅の恋人"に捧げる」の言葉。彼の秘書で友人でもあったシンドラーは、かつての恋人達のもとを訪ね、「不滅の恋人」を見つけ出すために、彼の心の暗闇を紐解いていく。
 聴覚障碍と心身の不調の中、次々と偉大な創作を続けるベートーヴェンが真に愛した女性とは誰だったのか…。
 ベートーヴェン研究者の永遠の謎である「不滅の恋人」をモチーフにしながら、豪奢な映像と音楽により、大胆なフィクションを展開する。
【impression】
 史実の解釈には相当無理があるようですが、映画としてはとてもよくできあがっています。映像と音楽とストーリーが重厚に重なり、映画ならではの豪華な表現となっています。
 ただ、「大音楽家の死後にその死のミステリーを探るべく彼の一生を溯る」という手法が、大ヒットした『アマデウス』に酷似しているため、どうしても割り引いて見られるのが残念です。
 ハンニバルやレオンで講演したゲイリー・オールドマンがベートーヴェン役をそつなくこなしています。ベートーヴェンの苦痛・苦悩みたいなものもなかなかうまく滲み出ているように思います。ただ、もう少し演じようによっては、更に映画の深みを増せるような気もしますが。
【staffs】
 大変個人的ですが、イザベラ・ロッセリーニの美しさ(当時42歳とはとても思えない)に心惹かれました。大恋愛の末、夫を捨てて、ロベルト・ロッセリーニと結ばれたイングリット・バーグマンの美しき娘だけあって、イングリットの透明さに艶やかで妖しい色を加えたような魅力があります。アンナ・マリー・エルデーティー伯爵夫人の役柄に最適。デビット・リンチと組んだ映画に定評がありますが、私は、密かに、この映画がイザベラの最大の当たり役だと思っています(多分、そんな人はいないと思うが)。しかしスコセッシ監督は、なぜ妻であるイザベラを一度も使っていないのだろうか(まだ離婚してないですよね?)。

【medical view】
 ベートーヴェンの視覚障害や腹痛、慢性的な不快感などについては、歴史的に様々な研究がなされてきたようですが、特に最近様々な発見があり、結論とまではいかないまでも、相当有力な説が得られています。
 まず、彼が20歳代後半から苦しんでいた聴覚障碍については、耳硬化症という説が有力なようです。この病気は、中耳から内耳の骨が大きくなり、人間が音を感じ取る経路である内耳の骨(あぶみ骨)が振動できなくなって、音が感じ取れなくなる病気です(しかし、それにしても、耳硬化症っていう病名は、「病名のイメージと症状や病態が全く違う病気ランキング」の相当上位にきそうですね)。この病気、音を聞く中枢自体にはダメージがありませんから、近くの音なら聞こえたりとか、骨伝導で聞き取ったりすることは可能です。ベートーヴェンが口に棒をくわえて、その棒をピアノに押し当てて音を聞いたというエピソードがあるそうで、それらをもとに1987年にウイーンの学者2人が耳硬化症と診断したということです。映画の中では、ベートーヴェンがピアノに耳をつけて弾いている場面がありましたが、あれも、伝音性難聴を表しています。
 ただ、それを正確に裏付けるような証拠が残っているわけではなく、メニエル病、発疹チフス、外傷、梅毒、骨ペイジェット病、自己免疫性感音性難聴、サルコイドーシスなど、ほとんど否定されている原因から、まだ有力な原因まで、色々とあるようです。
 一方、腹痛や下痢、慢性的な不快感の原因については、「鉛中毒」説が有力とされています。これは比較的最近ニュースやテレビ(日本テレビ「特命リサーチ」)で取り上げられたため、ご存知の方も多いでしょう。1994年、ロンドンのサザビーズで競売にかけられたベートーヴェンの遺髪を、ベートーヴェン研究家のアイラ・ブリリアントとアルフレッド・ゲバラが入手し、2000年にウィリアム・ウォルシュ博士に分析を依頼したところ、通常の百倍以上の高濃度の鉛が検出されたということです。鉛中毒の症状として知られているのは、頭痛、感覚の喪失、脱力、歩行困難、食欲不振、嘔吐、便秘、激しい腹痛、骨や関節の痛み、貧血、性欲減退、不妊、勃起機能不全があるそうで、いくつかの項目は、まさにベートーヴェンの苦痛を説明するのに相応しい症状です。ちなみに、鉛中毒になった理由は、当時のワインに甘味料として鉛化合物が大量に使われていたという理由が有力です(この映画でも描かれていますが、ベートーヴェンは、苦痛を抑えるために常にワインをたしなんでいたそうですから)。工業廃水で汚染されていたドナウ川の魚を食べたからという説もあるそうですが、これだとベートヴェン以外にも被害が広がっている必要がありますが、その証拠はないため、否定されているようです。
 この他、ベートーヴェンは梅毒でもあった可能性もあるため、梅毒そのものの症状が彼の苦悩をもたらしていたことも考えれてきました。また、当時、梅毒には水銀浴(樽に詰められた水銀に浸かる)が用いられ、病一般にも下痢を起こす薬物が処方され、塩化水銀などが多用されていましたから、水銀中毒による苦痛も想像されます。ただ、「天才と病」のところでも書きましたが、16世紀以降欧州は梅毒が席巻しており、梅毒やその「治療」の副作用だけで、ベートーヴェン特有の苦痛を説明するのは無理でしょう。
 こうした症状は、今後、科学の進歩によって、更に解明されていくことであり、ここに書いたこともそのうち、間違いとなるかもしれません。また、ベートーヴェンを苦しめた疾患は多岐にわたっており、複数の疾患の合併と考えた方が自然かもしれません。
 なおベートーヴェンの直接の死因は、肝硬変による全身症状の悪化であり、その他剖検によって、慢性膵炎、脾肥大、腎石灰化が確認されたそうです。
 いずれにしても、ベートーヴェンの名曲は、初期のピアノソナタ、初期のピアノ三重奏曲(大公など)、ピアノソナタ(テンペストなど)、初期の歌曲を除くと、ほとんど全てが、彼の苦痛と苦悩の中で生まれてきたという事実は今後も変えようがありません。
 ところで、ベートヴェンの苦悩が、耳硬化症と鉛中毒であったとすれば、耳硬化症は手術により相当な改善が可能ですし、鉛中毒は予防できるものです。また、梅毒はもちろん治療可能です。つまり、ベートヴェンが今の時代に生まれたとしても、その病は治療・予防されてしまい、彼は苦痛のない人生を送るということになります。そうした場合に、彼の音楽は、果たして存在し得ていたでしょうか?こう考えると、ベートヴェン個人の苦痛はともかく、彼が人類にもたらしてきた「感動」や「勇気」を考えると、病気というものも決して忌み嫌う一方ではフェアでないような気もします。
 もちろん、苦しみの果てに、治療を行っていたら、もっと違った「歓喜の歌」を作曲していたのではないかという想像は可能でしょうが(以前、日野原重明先生がそんなことを書いていたような気がします…)。

【books】
 ベートーヴェンや彼の恋愛に関する著作はいとまがありませんが、とりあえず2つだけ挙げておきます。
 ベートーヴェンの「不滅の恋人」に関する学術的な研究は、青木やおいさんの論文(国立音楽大学『音楽研究所年報』第15集(2001年度))がネット上で読めます。
 それから、ベートーヴェンの遺髪がなぜオークションされた理由や彼の生涯について書かれている、話題作「ベートーヴェンの遺髪(白水社)」がおすすめです。

【videos, DVDs入手しやすさ】★★★
 レンタルはビデオのみ、置いてあるショップもまあまあ。素晴らしい映像を鑑賞するには、デラックス版のセルDVDがお薦めです。早くレンタルDVDが出て欲しいものです。

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by harufe | 2005-07-01 10:39 | ICD H60-H95 耳乳様突起の疾患


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