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刑事コロンボ第5シーズン~忘れられたスター Forgotten Lady (1975 / US)

I67.1 脳動脈瘤,非<未>破裂性

【staffs】監督ハーヴェイ・ハート、脚本ウイリアム・ドリスキル
ピーター・フォーク(コロンボ刑事)ジャネット・リー(グレース・ウイラー)、モーリス・エヴァンス(レイモンド)、サム・ジャッフェ(ヘンリー・ウイリス博士)
【prises】(not worth mentioning)
【my appraise】★★★(per5)
【prot】
 往年のミュージカルスターのグレース・ウイラーは、自ら出資してまでカムバックを果たそうとしている。しかし、引退した医師の夫ヘンリーは、その出資に反対している。グレースはどうしても譲らない夫を、自殺に見せかけ銃殺してしまう。ヘンリーは前立腺の手術を勧められており、それを苦に自殺したと見られたが…。
 コロンボ刑事の推理と犯人との対決がいつも通り冴えるが、グレースの隠された持病が意外な結末を呼ぶ。
【impression】
 コロンボ作品の多くの作品に、胸の空くようなどんでん返しが用意されています。その、多くは、コロンボ自身がしかけたもので、逃げおおせたかに思える犯人を一気に追いつめるというものです。しかし、この作品では、ジャネットが疾病による記憶喪失や性格変化に苦しめられていた(伏線はしかれているのですが、追いつめられた犯人の心理や演技と思って見てしまいます)ということで、胸が空くというより、肩すかしをされたような気持ちになります。
 ただ、おそらく、ある程度の年齢に達した方が見れば、グレースやレイモンドに感情移入して見ることになるでしょうし、この肩すかしが、かえって含みのある印象を残してくれることと思います。
【staffs】 映画好きでないと気がつきにくいのですが(私は気がつかなかった)、グレース・ウイラー役のジャネット・リーは、ヒッチコック『サイコ』で有名な冒頭で殺されてしまう女優です。この作品で演じているとおり、1950年代に『Walking My Baby Back Home』でも主役を演じるなど、ハリウッドで成功をおさめたスターの1人です。トミー・リーカーチスと結婚、次女がジェイミー・カーチス。惜しくも、2004年10月5日にお亡くなりになりました。享年77歳。
 この作品に登場時は48歳(映画では実際より老けて見えますね)ですが、写真はお若い頃のものです。それにしても、この頃のハリウッドの女優というのは、特別なオーラがありますね。
【tilte, subtilte】
 “Forgotten Lady”は、もの悲しさが残るこの作品に絶妙なタイトルだと思うのですが、「忘れられたスター」とするとその絶妙さは失われます。しかし、確かに「忘れられた女」ともし難いし、「忘れられた淑女」も語感が悪いし、ぴたりとこないので、しょうがないですね。

【medical view】(ネタバレ)
 脳動脈瘤は、脳の血流によって血管にできる瘤のことで、通常は無症状ですが、これが大きくなって破裂するとクモ膜下出血を引き起こします。クモ膜下出血は、脳動脈瘤破裂以外の理由でも起こりますが、8割方脳動脈瘤破裂で起きるようです。医学が進んだといっても、クモ膜下出血が起きると、とりあえず保存的(対症的)な治療をしつつ、状況を把握した上で再発防止のための手術を行うという対処しかありません。したがって、未だに、クモ膜下出血の死亡率は5割程度と大変高い状況です。
 15年くらい前から、日本では、「脳ドック」が盛んになり、破裂前の脳動脈瘤を発見して、破裂前に治療することが進められてきました。しかし、そもそも、脳動脈瘤の手術は、副作用を遺す場合が希ではありませんから、どの程度どの大きさの動脈瘤であれば手術すべきかという知見が必要です。脳ドックがブームになった当初は、当然こういう知見はありませんので、手術すべきかどうか悩ましいところだったでしょうが、現実には、やや無理をして手術をした場合が少なからずあったのでしょう、一時期「脳ドック」が社会問題になったことがあります(脳ドックそのものの侵襲性(害)は無視してよいのですが、その後に、手術をして後遺症が残った例が多数報告された)。
 脳動脈瘤の場合、破裂するまでは症状が何もない場合が多いのですが、場所と大きさによっては、瘤が脳神経を圧迫することによってなんらかの症状が出る場合があるようです。記憶喪失や性格の変化もその症状の1つですが、この作品のように殺人したことすら思い出せないというところまで行くものなのでしょうか。
 さて、グレースの脳動脈瘤は、この作品の中では治療不可能ということになっています。1930年代から、アメリカでは、すでに金属のクリップで瘤をとめて留置して治療する「開頭クリッピング術」が行われていました。また、この作品が発表された1975年当時は、スイスで開発された顕微鏡下で行うマイクロサージャリーも始められており、どこまで一般的だったか分かりませんが、元ハリウッド女優と医師の夫婦であれば、当然手の届く治療だったでしょう。ということは、瘤の位置が、開頭手術に適さない場所だったということになるのでしょうか。
 1990年には、開頭しないで、細いカテーテル(マイクロカテーテル)を血管の内側から脳の瘤まで通し、コイルを留置するという技術がイタリアで開発されています。この方法(コイル塞栓術)は、日本でも92年から高度先進医療に認められ、97年から保険適用となっています(この当たりの年は不正確です。どなたかお教え下さい。正確になったら、高度先進医療の注釈も書きたいと思います)。コイル塞栓術の方が、開頭に比較すれば、患者への負担も当然少ないのですが、歴史が浅いための予後等が十分分かっていないことと、場所によって開頭の方が良いということも多いようです。また、新しい技術ですから、医師の技術水準にむらがある(やったことがないという医師も多い)こともネックです。
 いずれにしても、この作品が発表されたのが1975年ですから、グレースの脳動脈瘤がもしかりに15年破裂しないでもったとすれば(可能性ゼロということはないでしょう)、コイル塞栓術により治療ができるかもしれません。それでも、記憶がすっかり戻るということはないのでしょうが、もし記憶が戻るようなことがあれば、かえって不幸なのでしょうね。
【books】
 ノベライズが出ています。
この作品とは全く関係ないですが、頭痛が原因で脳動脈瘤が発見され、手術するまでのことを綴った下村治美さん(ジャーナリスト)の体験記はおもしろいです。この分野は進歩が早いので、やや時代遅れになっている部分があるかもしれませんが。
 それから、刑事コロンボシリーズの解説書としては、『刑事コロンボ読本』が超決定版です。普通の本屋で置いていないのが残念ですが、手軽に入手できますので、少しでもコロンボに興味のある方は、是非、購入されたら良いのでは(私も、ちょっとだけファンなのですが、大変面白かったです)。
【videos, DVDs入手しやすさ】★★★★
 刑事コロンボの第1期~第7期まではDVD、ビデオ共にレンタルされています。少し大きいショップなら必ず置いてあります。

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by harufe | 2005-07-09 11:47 | ICD I00-I99循環器系の疾患


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