ベニスに死す(1971/Ita,Fra)

A00 コレラ

【staffs】監督:ルキノ・ヴィスコンティ
出演:ダーク・ボガード(Aschenbach)、ビヨルン・アンデルセン(Tadzio)、シルヴァーナ・マンガーノ(The Mother)
【prises】
第44回アカデミー賞衣裳デザイン賞(ピエロ・トジ)ノミネート
第24回カンヌ国際映画祭パルム・ドール出品
第25回英国アカデミー賞(1971年)作品賞ノミネート、主演男優賞(ダーク・ボガード)ノミネート、監督賞(ルキノ・ヴィスコンティ)ノミネート、撮影賞(パスクァリーノ・デ・サンティス)受賞、美術賞受賞、衣装デザイン賞受賞、音響賞受賞
【my appraise】★★★+(3 plus per5)
【prot】
 1911年初夏のヴェニス・リド島。心臓病の療養でドイツからやってきた作曲家アッシェンバッハは、ポーランド人家族に目をとめる。母親と姉妹と連れられる少年タジオの肢体と美しさに、彼の魂が揺すぶられたのだ。 
 しかし、ヴェニスには熱風が吹き込め、疫病コレラが流行をはじめ、アシェンバッハもそれを知ることになる。しかし、魂をタジオに奪われた彼は、ヴェニスを去ろうとはしなかった…。
【impression】
 ルキノ・ヴィスコンティの代表作の1つ。「地獄に堕ちた勇者ども」「ルードウィヒ/神々の黄昏」とあわせて、ドイツ退廃三部作と呼ぶのだそうで、「退廃と美」というものを極めたという感じがします。ただ、「退屈なだけ」という感想を持つ人も多いだろうと思います。なにしろ、退廃と退屈は似たようなものですから。
マーラー5番の第4楽章アダージョの美しさは言うに及ばず、「豪華絢爛な究極の耽美世界」とはこのことか、という感じであります。トマス・マンの原作では、主人公が文学者でしたが、その設定を変更しているのは、音楽の美しさを合わせ鏡にするためでしょうか。
ホテルは映画のために建設されたのをはじめ、徹底的な美術考証がなされたようです。今リド島に行っても、ただの海水浴場です(行ってみて、がっかりした)。
【staffs】
 中年男が美少年に憧れを抱く、と聞くと、尋常な話とは思えませんが、タジオを演ずるビョルン・アンデルセンの美しさは、アッセンバッハの陶酔への感情移入を可能といたします。まあ、感じない人もいるだろうが。
 ビョルウ・アンデルセンは、この映画以外はほとんど知られておらず、30年前には中島梓氏を含め、わが国の「やおい」の人たち(当時はそんな表現もなかったと思いますが)から、熱狂的な支持を集めていたようです。

【medical view】
 コレラは、19世紀初頭までは、ガンジス川の三角州で流行する風土病に過ぎませんでした。それが、イギリス軍の植民地支配による交通網の発展と、なぜか高まった毒性により、世界を蹂躙する恐ろしい疫病へと変貌を遂げました。19世紀初頭の主としてアジアにおける流行を第1次流行として、この映画で描かれているのが第6次の最後の世界的流行でした。この6次にわたる世界的流行は、世界の歴史にも大きな影響を与えており、例えば、1830年代ポーランドの独立がロシアによって踏みつぶされたのも、ポーランドへのコレラ流行によるもののようです。タジオの家族が、ポーランド人という設定は、このことに何か関係があるのでしょうか。
 コレラは、1日数リットル~10数リットルにも及ぶ致死性の下痢を起こし、人々は極度の脱水状態の中で死を迎えました(筒井康隆は、だから「ペスト」は深刻な小説になるが、「コレラ」はパロディにしかならない…と「コレラ」というパロディ小説を書いたのですが)。コレラは糞便を通じて伝染します。当時のヨーロッパの都市では下水道が完備されていても、そのまま川に垂れ流し、上水道は川の水をそのまま使い、当然塩素による消毒も行っていませんでしたから、コレラにとっては大変都合の良い環境だったのでしょう。
 さて、このように聞くと、おそらく公衆衛生の進歩がこの病気を駆逐した、あるいは、医学の進歩・抗生物質の発見がこの病気を駆逐したとお思いになる方が多いと思います。
 しかし、そうではないのです。コレラという病気は6回の世界的大流行の後、故郷のベンガル地方に再び収束しました。そして、1961年インドネシアセレベス島に発生したエントール型という新型コレラに駆逐され、とって代わられるのです。このエントール型は、現在も毎年数十万人の患者を生む現在のコレラですが、とにかくそれ以前の「アジア型」に比較すると、症状が軽いのだそうです。
 世界の歴史を変えるような疫病の多くは、新たな人々の移動に伴い(その多くは戦争や侵略)それまで風土病として地域の人々と共存していたものが、猛毒化して大規模に広がり、そして、エイズを除けば医学が何ら有効な手段を持たない中で、流行をやめてきました。その中には、梅毒やコレラのように、明らかに勝手に弱毒化したものがあります。スペイン風邪に始まるインフルエンザなども、SARSの流行までは、その1つに数えて良かったのかもしれません。確かに、病原体の方も、宿主である人間をどんどん殺していては、自分が困るという面もあります。したがって、大規模に流行した後は、弱毒化して、宿主に負担をかけないように変化した方が良いとも思えます。
 この程度は誰もが考える仮説ですが、今後、証明されていくことでしょう。いずれにしても、今後も人類は、「いずれ弱毒化する」ことよりも、「突然猛毒化する」ことに十分注意すべきでしょう。

 ところで、この映画の最後では、アッセンバッハはタジオに陶酔しながら最期をむかえるわけですが、その死に方はコレラによる死と考えると不自然で、持病の心臓疾患の発作と考えるべきのようです。
 以上、濱田篤郎「旅と病の三千年史」文春新書同「疫病は警告する」洋泉社新書の内容を全面的に参照にさせていただきました。この2冊は、本当に面白くてお薦めです。
【tilte, subtilte】

【books】
 原作は誰でもご存知のことと思いますが、これって今絶版なのです。角川書店も“メガ・ソフトウェア・パブリッシャー”を標榜すると、こんな作品は出版に及ばないということなのでしょうかね。
【videos, DVDs入手しやすさ】★★★★
 DVD、ビデオ共に、レンタル&セルされています。2005年3月にセルDVDが1500円台で発売されたので、愛好家の方はそちらがお薦めかもしれません。
 やや大きめのレンタルショップでないと置いていないかもしれません(昔からあるショップだと、ビデオだけの場合がありますが、この映像だけはDVDで見ないと駄目だと思います。できれば、劇場で見た方が良いのでしょうね)

↓参考になったら、是非、人気ブログ投票してください↓
(アクセスすると投票したことになります)

人気blogランキングに投票

[PR]
by harufe | 2005-07-10 10:52 | ICD A00-B99感染症及び寄生虫症


<< ほんとうのジャクリーヌ・デュ・... 刑事コロンボ第5シーズン~忘れ... >>