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阿弥陀堂だより(2002/Jpn)

C81.9 Hodgkin病,詳細不明
F41.0 パニック障害
【copy】
いつの間にか、
遠くを見ることを
忘れていました

【staffs】監督:小泉堯史、原作:南木佳士、脚色:小泉堯史、撮影: 上田正治、音楽: 加古隆
出演:寺尾聰(上田孝夫)樋口可南子(上田美智子)、北林谷栄(おうめ婆さん)、田村高廣(幸田重長)、香川京子(幸田ヨネ)、井川比佐志(助役)、吉岡秀隆(中村医師)、小西真奈美(小百合)、塩屋洋子(田辺)、内藤安彦(村長)
【prises】
第26回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞(北林谷栄)、新人俳優賞(小西真奈美)、優秀作品賞、優秀監督賞、優秀主演男優賞(寺尾聰)、優秀主演女優賞(樋口可南子)、優秀脚本賞、優秀撮影賞、優秀照明賞、優秀編集賞、優秀録音賞、優秀美術賞、優秀音楽賞受賞
第57回毎日映画コンクール日本映画優秀賞、音楽賞受賞
第45回ブルーリボン賞新人賞(小西真奈美)受賞
第76回キネマ旬報日本映画ベスト・テン第7位、日本映画助演女優賞(北林谷栄)、日本映画新人女優賞(小西真奈美)受賞、
【my appraise】★★(2 per5)
【prot】
 信州の田舎に、東京から中年の夫婦が越してくる。夫は、10年前に新人賞をとったまま、最近ではペンをとることも少ない売れない作家。妻は、東京で、優秀な医師として活躍していたが、パニック障害を患い、夫婦は、妻の病気の癒しを求め、夫の田舎での生活を始めたのだ。
 妻は無医村のこの村で、週に3回の診療を始める。村の死者を祭る阿弥陀堂に住むおうめ婆さん、肉腫と闘う少女小百合、そして末期のがんを自然体で受け止め身辺を清らかにする幸田先生、彼らとの交わりと信州の自然が、妻の心を次第にほぐしていく…。
【impression】
 原作の高みを知ると、この映画に高い評価はしかねます。脇を固める北林谷栄と小西真奈美がレベルの高い演技をしているというのに、如何せん、主役2名が、演ずる人格を理解しているとは思えない。演技と離れても、樋口がエルメスのバックを常に手放さず、ロイヤルコペンハーゲンの陶器を使い、時計はシャネル、洋服は常に23区(これはスポンサーの関係だろうが)…これがどれだけ設定を踏みにじっていることか。「くつろぎ」「憩い」「癒し」といったイメージ・言葉だけが先行し、それを安易に映像化しようとする短絡が残念だ。
 田舎の生活や人間のリアリティを無視して、都会人の憩いの場の1側面だけを切り出そうとする…そういった安易さをカリカチュアしているのか、あるいはアフォリズムというのであれば、理解可能だが。
【staffs】
 小西は、映画はこれがデビューということですが、もともと「つかこうへい」の舞台出身、2004年は野田英樹の舞台にも登場するなど、舞台の仕事を大切にしているようです。というだけあって、演技が実にしっかりしています。舞台出身者が苦手としているような、細かい表情や質感の表現は、むしろしっかりこなしているのにも感心します。
 テレビの雑な仕事に染まらないで、大女優に成長してもらいたいところです。といっても、日本には受け皿がないのかな。

【medical view】
 小百合(小西真奈美)の「肉腫」がなんなのか、映画にも書かれていませんし、原作にも具体的な病名は書かれていません。ただ、原作者の南木氏は呼吸器科の医師で、専門ががんですので、当然、彼の頭の中で設定はして、文章にはしていないだけと思われます。映画・原作では、喉が原発、一度寛解して、肺に再発、しかも珍しい肉腫で、美智子(樋口可南子)が中村医師(吉岡秀隆)に指導する、その自信が美智子を解していくというという設定です。、こういう設定ですと、リンパ肉腫の中でもホジキン病ということになるのでしょうか。化学療法がよく効き、比較的治りやすいがんの1つですが、日本では珍しいということです。リチャード・ハリスがこの病気でお亡くなりになりましたね。
 美智子の病気は、パニック障害。身体的にはなんら異常がないにもかかわらず、駅など、人の多い場所で、強い不安に襲われる、実際、心臓が速く打ち、胸が痛くなり、からだがふるえ汗をかく場合もあります。不安が不安を呼び、死んでしまうのではないか苦しくなる。息苦しく感じ、過呼吸状態におちいると実際に意識を失って倒れてしまう場合もあります(血中酸素濃度は高すぎても、低すぎても人体に害があり意識を失う)。この病気のことを、原作者の南木氏のエッセイを読むと、彼は、最近になって独立した疾患として認められたというニュアンスで理解なさっているようですが、それは誤解であって、極めて古典的な病気です。古くは不安神経症という疾病で分類されており、いくら呼吸器が専門とはいえ、精神科の教科書をちょっと読めば出てくる頻度の高い疾患ですし、医師国家試験だって出題されるのに、この誤解は解せません。ただ、DSMやICDでは、パニック発作を起こす「パニック障害(恐慌性障害)」と漠然とした不安の状態の「全般性不安障害」とを区別しています。さらに、こういった状態が特定の対象と結びついた時(乗り物とか、駅とか、会社とか、学校とか、他人とか)、「恐怖性不安障害」とします。ただ、これら3つはは同じ患者さんの症状の別の側面の場合が多く、いまだに不安神経症という疾病概念で良いような気がしています。ちなみに、映画ではほとんど症状の表現が無い(少なくともパニック発作の履歴はない)ようですから、全般性不安障害に分類すべきかもしれませんし、原作を読むと乗り物恐怖から発症しているようですので、恐怖性不安障害に分類すべきかもしれません。しかし、やっぱり、1つの病気の異なる側面でしかないんので、この分類に大きな意味は認められないです。
 本人にとって辛いのは、症状だけでなく、周囲が「体に異常がないのに騒ぎすぎ」といった対応をする場合があることです。薬は比較的よく効きますが、薬だけで完全に良くなることは少ないです。また、以前、どこかでパニック障害の患者さんには、身体的な基礎疾患(治療の必要性のない不整脈や喘息既往など)が多いとの論文を読んだことがあります(確かBr J Psychiatだと思うが出てこない)。精神面のアプローチだけでなく、身体面のアプローチ・フォローをすることが治療上有効(少なくとも、精神的には)ではないかと思ったりします。
 原作の作者の南木佳士さんは、もともと秋田大医卒のドクター、長野県佐久総合病院に勤務しておられましたが、病棟回診中に、突然、激しい動悸とめまいに襲われ、このまま死ぬのではないかという不安発作を起こしたようです。南木佳士氏の小説には、自身を細分化して、再構成することが多いが、原作もその側面が強いようですね。
【tilte, subtilte】

【books】
 原作『阿弥陀堂だより』はお薦めです。映画を見て感動するくらいの方は、是非、原作をお読み下さい。映画の底の浅さが分かると思います。やや説教臭いのですが。
【videos, DVDs入手しやすさ】★★★★
 最近の映画でレンタルDVDもリリースされていますので、ほとんどのショップに置いてあります。

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by harufe | 2005-07-14 13:15 | ICD C00-D48新生物


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