打撃王 The Pride of the Yankees (1942/US)

G12.9 脊髄性筋萎縮症,詳細不明

【staffs】監督:サム・ウッド
出演:ゲイリー・クーパー(Lou Gehrig)、テレサ・ライト(Eleanor Gehrig)、ベーブ・ルース(Babe Ruth)、ウォルター・ブレナン(Sam Blake)
【prises】
 第15回アカデミー賞作品賞ノミネート、主演男優賞(ゲイリー・クーパー)ノミネート、主演女優賞(テレサ・ライト)ノミネート、脚色賞ノミネート、原案賞ノミネート、撮影賞(白黒)、ノミネート、作曲賞ノミネート、劇・喜劇映画音楽賞ノミネート、室内装置賞白黒ノミネート、特殊効果賞撮影ノミネート、特殊効果賞音響ノミネート、編集賞受賞、録音賞ノミネート
【my appraise】★★★-(3 minus per5)
【prot】
 ニューヨークのスラムに生まれ野球選手に憧れるルー・ゲーリック。彼は、母親の希望通りコロラド大学に進学エンジニアを目指すが、大学の野球部での活躍がヤンキースの目にとまり、大学在学中に、母親に内緒でヤンキースに入団する。やがて、全米を熱狂させるスタープレーヤーとなり、美しい妻を得て、アメリカンドリームを体現する。
 しかし、そんな彼の幸運と幸福も、彼を突然襲った病魔には勝てなかった。2130試合連続出場を達成後、彼は、惜しまれつつ引退する…。ゲーリックを襲い、死をもたらした病魔とはなんだったのか。
【impression】
 これが1942年、つまり真珠湾攻撃を受けた翌年の映画だと思うと、よくこんな国と戦争したものだと思います。月並みな感想だな。
 ベーブ・ルース本人が出演し、まさか本人とは思えないような、ちゃんとした演技をしています。その他、かつてのゲーリックの同僚達も出演しているとのことですが、私には判別できませんでした。ベーブ・ルースは、ルー・ゲーリックと仲が悪くて、口もきかなかったそうですが。死んでから、仲直りする気になったのか、死んでまで仲違いしているのは大人げないと思ったのか、死ぬ前から仲直りしたかったのか、最後の1つであることを願いたいものです。
【staffs】
 ルー・ゲーリックの妻、エレノアを演じるのは、テレサ・ライト。ヒッチコック『疑惑の影』の主演女優でおなじみですが、『ある日どこかで(1980)』『レイン・メーカー(1997)』にも出ていたようです。『レインメーカー』に出ていたのは、気がつかなかったです(この映画も白血病の保険適用をめぐる医療裁判映画ですので、いずれとりあげます)。
 この時代のハリウッドの女優特有の、透明で無垢な美しさは、ステレオタイプな女性像とは分かっていても、痺れるものがあります。ヒッチコックの映画で主演しただけあって、シカゴの金持ちのお嬢さんという雰囲気はさすがです。色気はないけどね。
 2005年3月9日お亡くなりになりました。

【medical view】
 ルー・ゲーリックの病気は、映画では触れられませんが、筋萎縮性側索硬化症(ALS)です。アメリカでは、筋萎縮性側索硬化症は、むしろ、「ルー・ゲーリック病」として知られています。それだけ、ルーゲーリックの突然の引退と死亡が衝撃的だったということでしょう。ALSは現在も原因不明ですが、当時は、日本遠征時に感染したのではないかだというという説もあったようです。なお、ルーゲーリックの他、ショスタコービッチや毛沢東もこの病気が原因で死亡しました。ホーキング博士もALSとして有名ですが、その病気の過程から、ALS以外の運動ニューロン疾患の可能性を指摘する神経内科医がいらっしゃいます。日本のALS患者三人とそのご家族、日本ALS協会近畿ブロックの作られたHPの中で、ホーキング博士の病を得た生活が和訳されています。
 ゲーリックは、1903年生まれ、映画に描かれているようにコロンビア大学在学中にヤンキース入団、1923~39年の17年間プレーし、2130試合連続試合、通算打率3割4分1厘、ホームラン493本、1934年には三冠王獲得など、素晴らしい記録を残しています。しかし、彼は1938年シーズン、特に夏以降、急速に成績を落とし、この年の暮れには、道路の縁石や石につまづいたり、物を落とすようになりました。1939年のシーズンは、1割台の打率で、5月2日自ら申し出て先発をはずれ、それ以降は、グラウンドでプレーすることはなかったということです(映画では、試合途中で、監督に申し出ているように見えましたが、どうなのでしょう?)。
 映画では、ゲーリックが、手指の違和感を覚えたり、スパイクのヒモをほどこうとしてつんのめったりして、発病に気がつきます。実際、筋萎縮性側索硬化症の多くは、こういった形で発症に気がつかれるようです(このほか、食べ物が飲み込みにくい、ろれつが回りにくくなるといった症状でも始まります)。この病気は、運動を支配する神経が少しずつ失われ、それに伴い、体中のあらゆる筋肉がやせていき、徐々にからだが動かせなくなり、食べ物を飲み込んだり、呼吸したりすることもできなくなります。多くは発症から全身が動かせなせなくなるまで、3~5年と急速に病勢が進みます。その後は、栄養や呼吸を摂取する手段、すなわち、中心静脈栄養や人工呼吸器によって生命を維持していくことになります。このように病気が進行しても、感覚や知能、眼球運動は維持され、失禁もほとんどみられません。
 筋萎縮性側索硬化症は「3~5年しか生存できない」と書かれている場合が多いですが、現在では、生命維持の手段を使った場合、肺炎などの疾患に注意すれば、相当長期にわたって生活続けられることが分かってきています。「3~5年しか生存できない」という言い方は、今や不正確で不適切な表現です。
 ただ、いずれにせよ、知能や感覚が保たれながら、体を意志通り動かせなくなる、大変残酷な病気です。介護も長期にわたりますから、ご本人はもちろん、家族や周囲の人たちの苦労も並大抵ではありません。そのために、自ら、人工呼吸器を使用しないことを選ぶ方もいらっしゃるということです。

 実用的な人工呼吸器が開発されたのが1929年ですが今の形式と異なり(陰圧式)、神経筋疾患に用いられるようになったのが1970年後半ということで、ルーゲーリックがこの恩恵に浴することはなかったのでしょう。日本では、1994年以降、在宅での人工呼吸器の使用が保険対象になりました。古い陰圧式の人工呼吸器通称「鉄の肺」は、コーエン兄弟「ビックリボウスキ」でご覧になれます。

 ところで、映画ではゲーリックが受診するのがScripps Clinicということになっていますが、実際に受診したのは、かのメイヨー・クリニックだったということです。1939年6月にゲーリックがメイヨークリニックを受診した際には、ゲーリックの体に異常があることは医学関係者に知れ渡っていて、メイヨーのドクターも事前に心構えをしていたということです。
【tilte, subtilte】
 「打撃王」というと、ゲーリックより、タイカップの名前を挙げる人が多いのではないでしょうか。その意味でも、余り良い邦題とは言えませんし、原題の良さを全く失った貧相な邦題ではないでしょうか。

【books】
 小長谷正明氏「ヒトラーの震え毛沢東の摺り足」を参照させて頂きました。この新書、お薦めです。広い意味の病跡学の読み物としても、とても興味深く読めます。
【videos, DVDs入手しやすさ】★★
 レンタルは過去リリースされていたようですが、現在ではほとんど見かけません。DVDのセルがリリースされています。
【参考ブログ】
鏡の誘惑、あるいは映画
太陽がくれた季節
桑畑四十郎デン助劇場

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by harufe | 2005-08-02 08:08 | ICD G00-G99神経系の疾患


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