カテゴリ:ICD E00-E90内分泌栄養代謝疾患( 4 )

アルジャーノンに花束を :Chary(1968/US)

E70.0 古典的フェニルケトン尿症

【staffs】ラルフ・ネルソン監督
クリフ・ロバートソン(Charly Gordon)、クレア・ブルーム(Alice Kinian)、レオン・ジャニー(Dr. Richard Nemur)、リリア・スカラ(Dr. Anna Straus)
【prises】アカデミー主演男優賞(クリフ・ロバートソン)
【my appraise】★★★(3per5)
【prot】
 子どもと同じ知的水準にしかない青年チャーリー。彼は、パン屋の雑用で収入を得ながら、外国人向けの夜学に通い文字を学んでいる。夜学の教師アリスは美しい未婚の女性、彼女は知的障害に関する論文を執筆中の大学院生でもある。アリスの強い推薦で、チャーリーは、白ネズミのアルジャーノンに対してしか試みられていない手術を受ける。手術は成功し、チャーリーの知能は瞬く間に高まるが…。
【impression】
 日本では、原作の小説の方が有名で、映画化されたことは余り知られていませんよね(テレビドラマ化されて、ユースケ某が、チャーリーを演じたそうですが、そういったものを見るほど、悪趣味ではないので、ここでは伏せておきます)。 この映画、原作と違って、チャーリーがアリス(クレア・ブルーム:右写真)のお尻や胸を目で追ったり、レイプしかけたりと、結構アダルトな内容となっています。
 この映画の最大の欠点は、チャーリー役のクリフ・ロバートソンが、知的障碍を演じるのが、あまり上手と思えないというところです。ちょっと思いつくだけでも、ここ10~20年名優と言われる俳優は、知的障碍を積極的に演じています(受賞は全てオスカー)
◎レオナルド・ディカプリオ(ギルバート・グレープ:助演男優ノミネート)
◎ショーン・ペン(アイアムサム:主演男優ノミネート)
◎トム・ハンクス(フォレスト・ガンプ/一期一会:主演男優賞受賞)
◎ケヴィン・ベーコン(ウィズ・ユー)
◎ジュリエット・ルイス(カーラの結婚宣言)
◎キューバ・グッディング Jr(僕はラジオ)
◎ビリー・ボブ・ソートトン(スリング・ブレイド→知的障碍というより、特異的発達障害?)
◎ダスティン・ホフマン(レイン・マン→間口を自閉症まで広げると:主演男優受賞)
 これらとと比較すると、クリフ・ロバートソンの演技のレベルは相当低いように思います。だけど、これで、クリフ・ロバートソンはオスカーもらっているようなので、当時の演技レベルだと、この程度で評価されたということなのでしょうか。
 また、専門機関が考証を手伝っているようですが、俳優さんが、現在の科学の知識からすると、随分変なことを言ったりしています。これはやむをえないのでしょうね。 「知的障害を脳手術によって治療する」という発想そのものが、今じゃ考えにくいですし(この頃のアメリカは特に外科手術信仰が強かったのでしょう)。
 それに、70年前後に流行ったような凝りすぎの映像がかえってしらけるなど、全般に、原作の域には達していないように思います。

【medical view】
 原作では、チャーリーの知的障害の原因は、フェニルケトン尿症となっています(映画の方では触れられていません)。 フェニルケトン尿症は、常染色体劣性遺伝病の代謝異常で、日本では8~10万人に1名くらいの発症率だそうです(ちなみに、欧米では1万人1人、中国では1万5千人に1人のようです)。 遺伝子の欠損によって、必要な酵素(アミノ酸の1つフェニルアラニンをチロシンという別のアミノ酸に変える酵素)が作られず、血中に有害な物質(フェニルアラニン)が蓄積され、それが中枢神経の発育を阻害し知能障碍を引き起こしたり、 赤毛、色白などのメラニン色素欠乏を引き起こすという病気です。逆にいえば、神経が十分に育つまでの期間、フェニルアラニンが含まれた食品(タンパク質を含む食品にはだいたい含まれます)をとらなければ良いことになります。 ということで、少なくとも先進国では、早期発見によって、完全に対処されています。 日本でも、1977年以来、生まれて数日のうちに検査して(このとき類似の疾患を合計5種類検査します)います。 しかし、フェニルケトン尿症の子どもは、一般の食事は制限され、しかもフェニルアラニンの含まれない不味いミルクを補助的に飲むという生活を続けるわけで、結構大変なことと思えます。 給食とかも食べられず、弁当を持参しなくてはならないということで、大変ですねえ。 まあ、食事以外は、全く普通の生活を送れるわけですから、そう悲観することではないのかもしれませんが、ご家族やご本人のご苦労はいかばかりでしょうか。

 フェニルケトン尿症は、遺伝病の中でもメンデル遺伝するもので、父親・母親、両方がこの遺伝子を持つ場合にのみ、子どもに症状が現れます(常染色体劣性遺伝)。父親と母親は、フェニルケトン尿症をもたらす遺伝子の変異を持ちながら、なんら特別な症状はもっておらず、フェニルケトン尿症の子どもが産まれて初めて自分がその遺伝子を持っていることに気がつくというわけです。8~10万人に1人がこの病気に発症するということは、300人に1人はこの遺伝子を持つ人がいるということになります。もっとも、こういうタイプの遺伝病(常染色体劣性遺伝病)は1,500種類あり、どんな人でも少なく見積もって3つ程度の遺伝子変異を持つという計算になるのだそうです。つまり、誰もが少なからず遺伝的な負因を持っているとことですね。「ロレンツォのオイル」のところで述べたことと重なりますが、「遺伝病」を忌避する精神が、小市民的利己的であるばかりでなく、いかに非科学的であるかということが分かります(自己中心的で頭が悪いということですね)。もっとも、近親結婚・出産はやめた方が良いというのは、間違いないですね。
 フェニルケトン尿症の遺伝子は、1986年に初めて見つかりましたが、その後、350種類の異なる遺伝子が見つかっています。要するに1つの病気でありながら、その原因は350通りある(そのどれもがフェニルケトン尿症を起こす)ということになります。その中には、治療の必要がない軽症例もあったため、昔から知られているフェニルケトン尿症のことを、「古典的フェニルケトン尿症」と呼ぶのが正式になっています。当然、生後すぐにフェニルケトン尿症としてマススクリーニングされた子どもの中にも、軽症例や一過性の症状を持つ方が含まれていたことになり、見直しが必要になってきているところです。

 フェニルケトン尿症は、昔から知られている遺伝病でした。それが早期発見・対応により、障碍を持つことなく生活が送れるということで、戦後の医学・公衆衛生学への大きな成果であり、人類の期待・希望の手掛かりでもありました。しかし、現在では、病気の多くはそう単純ではないということが分かってきており、フェニルケトン尿症の見方自体も仕切治しがなされているということです。

 いずれにせよ、チャーリーのような人は今や生まれなくなっています。 これもまた、大きな科学の勝利です。 そいうことで、原作が書かれた時代は、チャーリーの脳手術はSFといえたが、今やSFとしても成立しないということです。
【tilte, subtilte】
 原題は、主人公の名前「CHARLY」(ただし「R」は左右非対称の文字→主人公が知的障害でRを左右非対称に書いてしまうことを表したもの)。 公開時の邦題は「まごころを君に」(すごいタイトル…)。 その後、ダニエル・キースの原作が「アルジャーノンに花束を」という邦訳でヒットし、この邦訳がそのままDVDタイトルとなった。
 「アルジャーノン」は、主人公チャーリーと競う脳手術が行われたネズミ。 「まごころを君に」よりは、「アルジャーノンに花束を」の方がまともか。 「アルジャーノンに花束を」というタイトルは、あまり良いタイトルとは思わないが、原作の邦訳が出版された当時の日本(1980年代)の心理系女子の心を捉えたという意味では評価できる。

【books】
原作はロングセラーです。チャーリーの知能の変化を文体によって表現する手法は、小説ならではで、見事です。
【videos, DVDs】★★★
以前、ビデオ、LDが発売され絶版になっていましたが、最近、DVDセル・レンタルがでました。ただ、ショップには余り置いていないようで、ネットレンタルを利用するしかなさそうです。

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by harufe | 2005-06-23 18:00 | ICD E00-E90内分泌栄養代謝疾患

マイフレンドメモリー : The Mighty(1998/米)

E76.2 その他のムコ多糖(体蓄積)症(モルキオ症候群)

【staffs】監督 :ピーター・チェルソム
出演 :キーラン・カルキン(Kevin Dillon)、エルデン・ヘンソン(MaxwellKane)、シャロン・ストーン(Gwen Dillon)、ハリー・ディーン・スタントン(Grim)、ジーナ・ローランズ(Gram)
【prises】(not worth mentioning)
【my appraise】★★★(3per5)
【prot】
 祖父母に育てられ学習障害(識字障害?)を持ち、体格は良いがでいじめられっ子のマックスの家の隣に、難病(Moruqio症候群)の少年ケヴィンが母(シャロン・ストーン)と越してきた。
 病気をもちながら、該博な知識を持ち、誇り高きケヴィンは、マックスを勇気づけ、二人はたちまち親友となる。ケヴィンの頭脳と、マックスの体が一体となれば、勇者フリークとなるのだ…。
【impression】
 余命幾ばくもなく障碍を持つ子どもの母をシャロン・ストーンが熱演し、その他の俳優もそれぞれの熱演ぶりが光ります。ストーリーも厭きさせません。ただ、単なるお涙頂戴物にすることに制作側がとまどいがあったのか、インパクトの面ではやや弱い気がします。

【medical view】
 Moruqio症候群は先天性のムコ多糖代謝異常症の1つ。ムコ多糖を分解する酵素が生まれつき欠けていることによって、分解されないムコ多糖が、神経や骨など、体に悪い影響をもたらすという病気です。知的障害をもたらす場合が多く、進行性で、また、成人に達するまでに死亡する型もあります。モルキオ症候群の場合は、骨の変形の一方で、知的な障害は現れません。詳しくは、ムコ多糖症親の会のHPをご覧下さい。
 残念ながら、今のところ効果的な治療法がありません。欧米では、酵素補充療法の臨床試験が行われる予定(もう行われているかも)で、期待がかかっているそうです。こういう病気は、まだまだ多いのです。
 日本では、ムコ多糖類代謝異常全体、4~5万人に1人に発生しますが、一般に余りにも知られておらず、その研究や薬の開発が遅れています。こういう映画を機に、一般の方々の認識を高めたいところですが、私の見たDVDの字幕ではMoruqioの言葉が訳されておらず、なんの病気高分からなくなっており、しかもDVDの情報としても掲載されていませんでした。劇場ではどうだったのか知りませんが、大変残念です。

【books】
 原作は『フリークザマイティ』。残念ながら絶版です。
【videos, DVDs 入手しやすさ】★★★
 DVDレンタルが出ていますが、置いていないショップの方が多いようです。

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by harufe | 2005-06-18 08:33 | ICD E00-E90内分泌栄養代謝疾患

パニック・ルーム : Panic Room(2002/米)

E100 インスリン依存性糖尿病<IDDM>,昏睡を伴うもの

【staffs】監督 :デビット・フィンチャー
出演 :ジョディ・フォスター(Meg Altman)、フォレスト・ウィテカー(Burnham)、ドワイト・ヨーカム(Raoul)、ジャレッド・レト(Junior)、クリステン・スチュワート(Sarah Altman)
【prises】(not worth mentioning)
【my appraise】★★+(2 plus per5)
【prot】
 メグは、資産家で熟年の夫と離婚し、娘のサラと二人でニューヨーク市街の邸宅に越してくる。その邸宅は、大富豪が遺したもので、パニックルームと呼ばれる緊急避難室が設けられている。彼女たちが引っ越してきたことを知らない3人組強盗が、引っ越し初日の深夜、大富豪が隠した財産をねらって侵入してくる。
 メグとサラはパニックルームに逃げ込むが、サラが小児糖尿病の低血糖発作に襲われる。母娘は必死に外部への連絡を試みるが…。屋敷内を舞台にしたサスペンス。
【impression】
 それなりに面白く見られます。ただ、もう少し面白くなりそうでならないので、やや歯ぎしりしたくなる作品でもあります。
 特に、デビット・フィンチャー監督だから、とか、「ジョディが『ハンニバル』を蹴って出演した作品」というガセネタを信じていたりすると、期待を裏切られる気分になると思います(本当は、「ニコール・キッドマンが怪我をした代役に指名されて、カンヌの審査委員長を蹴って出演した作品」ということらしい)。
【medical view】
 ジョディの娘役の女の子クリスチャン・ステュワートが演じていたのは、IDDM(インスリン依存型糖尿病)です。彼女が常に気にしていた腕時計みたいなのは、グルコウォッチといって血糖値をモニタする機器だそうです。欧州でのみ認可されていて、日本ではもちろんアメリカでも認可されていないらしい。認可されていないようなものも使えるようなリッチなご家族ということなのでしょうか。

 IDDM(インスリン依存型糖尿病)は、1型糖尿病とも言われ、一般によく知られる生活習慣病である糖尿病(2型)とは成因が全く異なります。
 一般に知られている糖尿病(2型)は、中年以降、食生活・生活習慣や体質により発症するのに対して、1型糖尿病は過去のウイルス感染等が原因でインシュリンを生成する膵臓機能がダメージを受けるため生じます。その多くが小児期に発症しますので、小児糖尿病とも言います。

 この映画でうかがい知れるように、本人・家族共に、日常生活に気を遣います。また、学校で、子ども自らで血糖値をはかったり、インシュリン注射をしたりと、大変な苦労がある上に、残念ながら、他の子ども達から好奇の眼で見られることが多く、本人が精神的にも辛い思いをする場合が多いようです。
 詳しくは、日本IDDMネットワークのページをご参照下さい。
 この映画は、IDDMの家族や本人達の間で、一時話題になったようです(私の知るIDDMの高校生は知りませんでしたが)。糖尿病は、病気のコントロールがきちんとなされていれば、普段は無症状です。しかし、それを怠ると生命に関わる症状があらわれる場合があります。
 糖尿病を原因で、昏睡状態や意識レベルが低下するのは、糖尿病性ケトアシドーシス(基本的にIDDMのみ)や高血糖高浸透圧性昏睡が知られています。これらは、治療が行われていないために、体内のインスリンが無い・不足し、細胞が血中の糖を取り込むことができなくなる(血糖値が異常に高くなる)ことによって起こります。一方、インスリンのコントロールを間違えた場合、低血糖になることによっても、この映画のような症状が現れます。
【tilte, subtilte】
 あらすじにも書いてありますが、原題のPanic Roomは、主として豪邸で、強盗から襲われた場合に逃げ込めるように造りつけてある緊急避難部屋です。
【books】
 ノベライズが出ています。
【videos, DVDs入手しやすさ】★★★★★
 ビデオ・DVDともレンタルがリリースされています。話題作でしたから、どのショップにも必ずあります。

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by harufe | 2005-06-17 09:23 | ICD E00-E90内分泌栄養代謝疾患

ロレンツォのオイル 命の詩 :Lorenzo's Oil (1992/米)

E71.3 脂肪酸代謝障害(副腎白質ジストロフィー)

【staffs】
監督 :ジョージ・ミラー
出演 :ザック・オマリー・グリーンバーグ(Lorenzo)、ニック・ノルティ(Augusto Odone)、スーザン・サランドン(Michaela Odone)
【prises】(not worth mentioning)
【my appraise】★★★★+(4plus per5)
【prot】
 5歳の聡明な少年ロレンツォは、学校での奇妙な行動をきっかけに、不治の難病ALD(副腎白質ジストロフィー)を発見される。数年の命を宣告され徐々に歩行や言語に障害が現れる中、食事療法も免疫療法も効果が無い。
 両親は、必死になって自ら治療法を探し始め、父は、極長鎖脂肪酸の産生を抑える食事療法がかえって血中極長鎖脂肪酸を高めていることをヒントに、ある推論をたてる…。
【impression】
 これもメディカル系の映画の筆頭にあがる映画です。
 実話をもとに作成され、考証も正確。厳密なリアリティの上になりたったストーリーと演技が、共感と感動を呼ぶ…という、良質な映画の1つの典型だと思います。
【staffs】
 ニック・ノルティとスーザン・サランドンが、ALDの子どもを持つ親を好演しています。個人的には、ニック・ノルティは、『ケープフィア』で見せた、弁護士で、頼りになりそうでいて、イマイチ頼りにならない父親役とダブるところ、そして、スーザン・サランドンは、『テルマ&ルイーズ』で見せた、「立ち上がる女」とダブるところが、この映画に深みを与えました。まあ、こういう見方は邪道なんでしょうが。
 もちろん、ザック君の好演も見逃せません。

【medical view】
 この映画で主題となっているALD(副腎白質ジストロフィー)は比較的珍しい病気の上に、病気の成り立ちが複雑であるため、なかなか一般には理解されにくい病気だと思います。詳しくは、この病気を持つ患者の家族の方が作っておられるサイト(ALD)がとても分かりやすく、そして詳しいので参考にしていただければと思います。
 メディカル系のテレビ・映画をよく見られる方なら、ER第5シーズンでダグ(ジョージ・クルーニー)がシカゴを去ることになったのもこの病気がきっかけ…と言えば思い出されるでしょうか。モーゲンスタンER部長退職後に採用された偽医者の部長(アマンダ)が、オイルは?とお母さんに聞き、母親が、もうそういう時期ではないの…と答える場面(うろ覚えですが)がありましたが、あれはロレンツォのオイルのことなんですね(偽医者がよく勉強しているものです…あ、この映画見てたのか、そうだよな、初期にしか使えないということすら分かってなかったのだから)。
 映画の方だけ見ると、父親の推論というか論理展開は、納得のいくところで(自然科学的着想だし)、あたかもロレンツォのオイルでALDが救われるかのように見えてしまう部分があります。しかし、実際は、そう単純ではないようです。今のところ、ロレンツォのオイルは、確かに幼少期発症の型の一部に一定の効果があるが、エビデンスは明確でなく、もっか、研究段階にあるようです。つまり、残念ながら、この映画より、ERの方が正確な考証のようです。このあたりのことは、メリルストリープ主演の「誤診」やとともに、いずれ論じたいと思います。
 ちなみに、「ロレンツォのオイル」は、日本では保険適用になっていません。これも、エビデンスが明確でないことが大きな要因でしょう。一方的に制度を否定するつもりはありませんが、大変な病気を抱えつつ、それ以上に負担をかけるというのは、心情的には納得しにくいところです(ちなみに、保険の適用はありませんが、日本薬局方に収められているため、薬監の手続きをとれば、選定医療として混合診療の例外扱いにはなりますが…詳しい説明は省略します)。
 いずれにせよ、大変残念なことに、現在、ALDの治療は希望が少ないと言わざるをえません。その中で、医療従事者側ではなく、患者側の知恵と努力の結晶であるロレンツォのオイルが、一筋の光を投じていることは、特筆すべきでしょう。
 この映画では、医師側、患者会の「体制側」とロレンツォの両親の対立が映画の中で描かれますが、これも興味深いところです(この点については、アメリカ医療制度の紹介で有名な李啓充氏のページ(医学書院)が参考になります)
 ところで、この映画に関して、ネット上で、「副賢白ジストロフィー」という不可思議な語句が飛び回っています(「副腎白質ジストロフィー」に似て非なる語句ですね。ちょっと検索してみて下さい。びっくりするくらい多いです。)。誰かが間違えたのをそのままコピーペーストしている間に広まったのだと思います。ネットの情報のいかがわしさと、意味も分からない専門用語を無理に使おうとする哀しさと、自らにも戒めなくては…と思いました。私の名前は、「賢」という字が入るのですが、以前、教えていた看護学生から「腎」と間違えて書かれることが数度あり、妙に納得したことがあります(何しろ腎臓の「腎」ですので)。それと、逆ですね。だけど「白ジストロフィー」ってなんだろうなあ。

 さて、ここからは、知性と教養のあると自信のある方のみがお読み下さい。そうでない方が読むと、妙な偏見に至る可能性があります。
 ALDという病気は、X染色体に乗っている遺伝子が発症をもたらす、伴性劣性遺伝というタイプの病気です。具体的には、X染色体上のALD遺伝子情報のキャリアである母親から、基本的には、2分の1の確率で息子にだけ遺伝する病気です(伴性劣性遺伝でも娘に全く症状が出ないということではありませんが、例えばALDの場合、娘が発症するとしても症状はマイルドで中高年になってからとのことです)。同様の病気で、比較的知られているのは、血友病や筋ジストロフィー(デュシェンヌ型)があります。
 したがって、この病気を持つ息子を授かった母親というのは、愛する息子の不幸だけでなく、それが自らの遺伝によるものという冷酷な事実と、二つの衝撃的な事実を受けとめなくてはなりません(妊娠前に自分がALDのキャリアであることを知る女性も理屈上はいらっしゃるとは思いますが…)。
 つまり、母親が「自分のせいで息子が苦んでいる」という「罪の意識」を持つ場合があるということで、このことが、夫婦間の意識の差にも表れる場合があるようです。いちがいには言えませんが、自分がその立場におかれたと想像すると、母親が自罰的になり、父親が他罰的になるのはやむをえないような心持ちになります。
 この微妙な背景を知りつつ、この映画を見ると、ニック・ノルティとスーザン・サランドンの演技の絶妙さが理解できます。なお、脚本的には、ER第5シーズンの方が深いように思います(母親は、息子が苦しんでいる姿に耐えきれず、ダグに安楽死を懇願するのに対して、離婚して別居している父親は、息子の最期に出会えなかったと、ダグを告訴する)。
 私が、「知性と教養のある」と断ったのは、「遺伝」という言葉を使った瞬間に、多くの知性と教養のない人たちが、「自分に関係ないこと」と妙な安心をすることです。こういう「他人事」的な感覚を持つ知性と教養のない人々は、かえって高学歴や高い社会的地位にある人に多いように思います。私は、こういう人たちやこういう感じ方に強い不快感を持ちます(そういう人の多くは、高学歴でありながら、遺伝と遺伝子の区別もつかない)。
 遺伝子プールという考え方があるのは、理系の方の多くはご存じと思います。また、人類の遺伝子は、通常その数パーセントしか用いられていないということもご存じでしょう。更に、鎌形赤血球症の遺伝子のように、一見、病気をもたらす遺伝子が、特定の地域では生存に有利(マラリアに耐性がある)であるという話もあります。
 人類は、遺伝子プールという共通の種の源泉を共有し、個々の底では全てつながっているようなイメージでしょうか。なにやら、ユングの集合的無意識のような話ですが。
 こういう感覚で、ALDのような遺伝疾患を考えると、それが、我々人類にとっての共有の「財産」であると同時に、共有の苦しみであり、ある意味、我々を代表して苦しんでおらえるとしか思えません。ヒューマニストぶっているようですが、科学的合理的な発想に立てば、おのずとそういう考えに至ります。
 だからこそ、「他人事」的なメンタリティーは、無教養で無知性のものとして、と感じるのです。
 この当たりについて興味を持たれた方は、テーマは異なりますが、統合失調症について書かれたデイヴィッド・ホロビン著「天才と分裂病の進化論」をご参照下さい(統合失調症も、「遺伝」と結びつけて、「他人事」とする無教養な人々が多い疾患の1つだと思いますので)。
【tilte, subtilte】
 ストレートな原題ですが、邦題はそれにサブタイトルをつけています。
 配給会社がつけそうな副題ですが、どうなんでしょうかこの副題は…。私が気にするほどのことはないですが、無神経な副題のような気もします。

【books】
 関連書籍は販売されていないようです。
 なお、上で紹介した、この映画について言及している李啓充氏の週間医学界新聞の連載は、まとめられて、医学書院から『アメリカ医療の光と影 医療過誤防止からマネジドケアまで』として発売されています。
【videos, DVDs】
 レンタルDVDがリリースされていて、比較的多くのショップで扱っているようです。

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by harufe | 2004-12-31 09:53 | ICD E00-E90内分泌栄養代謝疾患